AIを導入すれば医療事務1人を1.3人として算定できる?対象医療機関と要件を解説

令和8年度診療報酬改定に関連して、「AIを導入すると、医療事務職員1人を1.3人として配置人数に算入できる」という話を聞く機会が増えています。

しかし、この説明にはいくつか注意が必要です。

結論からいうと、今回の仕組みは「医療DX推進体制整備加算」ではありません。

対象となるのは、「医師事務作業補助体制加算」における、ICT機器を活用した配置人数の算入方法です。

また、一般的な受付事務やレセプト担当者を含む、すべての医療事務職員が対象になるわけではありません。

対象となるのは、医師の指示を受けて診断書や紹介状の作成補助、診療録への代行入力などを行う「医師事務作業補助者」です。

1.3人換算の対象となる医療機関

1.3人換算の対象となる医療機関の整理。病院と有床診療所は対象、無床診療所・訪問看護ステーション・介護・福祉・保育は対象外

今回の配置人数の算入方法を利用できるのは、「医師事務作業補助体制加算1」または「医師事務作業補助体制加算2」を届け出る保険医療機関です。

主な対象は次のとおりです。

病院

病院では、医師事務作業補助体制加算の15対1から100対1までの区分が対象候補となります。

ただし、病院であれば無条件に算定できるわけではありません。

救急医療の実績、病院の機能、医師事務作業補助者の配置状況、研修体制など、選択する区分に応じた施設基準を満たす必要があります。

有床診療所

有床診療所についても対象になる可能性があります。

ただし、対象となるのは50対1、75対1、100対1の区分です。

有床診療所であっても、緊急入院患者数などの実績要件や、人員配置、研修等の施設基準を満たさなければ算定できません。

無床診療所

無床診療所は、今回の医師事務作業補助体制加算における1.3人換算の対象外です。

そのため、無床診療所が生成AIや音声入力システムを導入しても、この仕組みを使って職員1人を1.3人として算入することはできません。

訪問看護・介護・福祉・保育

訪問看護ステーション、介護事業所、障害福祉事業所、保育所等も、今回の医師事務作業補助体制加算の対象ではありません。

今回の制度は、あくまで一定の病院や有床診療所における医師事務作業補助者の配置基準に関する仕組みです。

生成AIを導入するだけでは1.3人換算にならない

今回の制度について、最も誤解されやすいのがこの点です。

生成AIのシステムを契約したり、パソコンにAIツールを入れたりするだけで、1.3人換算になるわけではありません。

まず、生成AIを活用し、次のような医療文書の原案を作成する仕組みが必要です。

  • 退院時要約
  • 診断書
  • 紹介状
  • その他の医療文書

さらに、院内の一部の職員が試験的に使うだけでは不十分です。

大半の医師と医師事務作業補助者が日常的に使用し、文書作成業務が実際に効率化されていることが求められます。

加えて、次のような体制整備も必要です。

  • 医師事務作業補助者への操作研修
  • 生成AI利用に関する研修
  • 医療情報を扱うための安全管理
  • AIを常時利用できる環境の整備
  • 導入前後の業務時間や業務量の測定
  • 利用状況や効果を確認できる記録の保存

つまり、評価されるのは「AI製品を購入したこと」ではありません。

実際の業務で継続的に使用し、医師や医師事務作業補助者の負担が軽減したことを確認できる状態が必要です。

1.2人換算と1.3人換算の違い

1.2人換算と1.3人換算の要件の違い。生成AIだけでは原則1.2人換算、1.3人換算には追加のICT活用が必要

生成AIを中心とした要件を満たした場合、医師事務作業補助者1人を1.2人として算入できる仕組みが設けられています。

一方で、1.3人換算を行うためには、1.2人換算の要件を満たしたうえで、さらに別のICT活用が必要です。

追加要件の例として、次のような仕組みが示されています。

医療文書用の音声入力システム

医師が話した内容を、診療録、退院時要約、診断書、紹介状などの医療文書として入力するシステムです。

一般的なパソコンやスマートフォンに付属している音声入力機能ではなく、医療文書の作成に使用することを目的としたシステムが想定されています。

RPAによる定型入力の自動化

RPAとは、人がパソコンで繰り返し行っている定型操作を自動化する仕組みです。

医療情報システム等への定型的なデータ入力を自動化し、事務作業を削減する用途が想定されています。

患者向け説明動画

入退院、検査、処置、手術、麻酔、医療安全、感染対策などについて、患者に説明する動画を整備して活用する方法です。

1.3人換算の要件として利用する場合は、一定数以上の動画を整備する必要があります。

したがって、整理すると次のようになります。

  • 生成AIを活用した医療文書作成支援=原則1.2人換算
  • 生成AIによる医療文書作成支援+音声入力、RPA、説明動画等の追加活用=最大1.3人換算

1.3人換算は30%の人員削減を意味しない

1人を1.3人として算入できると聞くと、「職員を30%減らせる」と考えるかもしれません。

しかし、単純に30%削減できるわけではありません。

例えば、必要配置人数が6人の場合、実人数5人を1.3人換算すると6.5人相当になります。

一方、実人数4人では5.2人相当となるため、必要な6人を満たせません。

1人を1.3人として換算した場合の理論的な実配置割合は約76.9%です。

そのため、理論上の圧縮幅は最大約23.1%となります。

さらに実際の届出では、常勤換算、勤務時間、対象病棟、配置区分、端数処理などを確認する必要があります。

「AIを入れれば3割減員できる」という理解は適切ではありません。

AI導入から届出までの進め方

AI導入から届出までの進め方5ステップ。対象判定、現状把握、小規模導入、体制整備、届出・継続評価

制度を活用する場合、次の順序で進める必要があります。

1.対象医療機関か確認する

まず、病院、有床診療所、無床診療所のどれに該当するか確認します。

そのうえで、現在の医師事務作業補助体制加算の届出状況と区分を確認します。

2.現在の業務量を測定する

AI導入前に、次の項目を測定します。

  • 医療文書の作成件数
  • 文書1件当たりの作成時間
  • 医師が事務作業に使っている時間
  • 医師事務作業補助者の業務内容
  • 残業時間
  • 医師と補助者の負担感

導入前の記録がなければ、AIによってどの程度効率化されたのかを証明できません。

3.一部の業務で試験導入する

いきなり全院導入するのではなく、診断書、紹介状、退院時要約など、対象を限定して試験的に導入します。

AIの出力精度、確認に必要な時間、職員が修正した箇所などを記録します。

4.院内体制を整備する

AIを使用する職員への研修、安全管理規程、確認責任者、利用ルール、利用ログの保存方法などを整備します。

AIが作成する文書はあくまで原案です。

最終的な内容確認と責任の所在を明確にする必要があります。

5.効果を確認して届出を行う

導入前後の業務時間や負担を比較し、十分な効果が確認できた段階で届出を検討します。

届出後も年1回程度、業務量、業務時間、医師の負担感、AIやICTの利用状況などを確認し、必要な改善を行います。

対象外の医療機関や介護・福祉・保育にはAIは必要ないのか

制度対象外でもAIが不要という意味ではない。医療・介護・福祉・訪問看護・保育で今後広がる活用領域の整理

無床診療所、訪問看護ステーション、介護事業所、障害福祉事業所、保育所は、今回の1.3人換算の対象ではありません。

しかし、「制度の対象外であること」と「AIを導入する価値がないこと」は別の話です。

無床診療所

無床診療所では、次のような業務でAI活用が考えられます。

  • 紹介状や診療情報提供書の下書き
  • 患者向け説明文の作成
  • 院内マニュアルの整備
  • 問い合わせ対応文の作成
  • 会議録や研修資料の作成

訪問看護ステーション

訪問看護では、次のような業務でAI活用が考えられます。

  • 訪問看護計画書や報告書の下書き
  • 主治医やケアマネジャーへの連絡文作成
  • 申し送り内容の整理
  • 会議録の作成
  • 採用や職員教育に使う資料の作成

介護・福祉事業所

介護・福祉では、次のような活用が考えられます。

  • 介護記録や支援記録の文章整理
  • 申し送り内容の要約
  • ケア会議の議事録作成
  • 事故報告書やヒヤリハット報告の下書き
  • 加算に関する計画書や会議資料の作成
  • 職員研修資料の作成

保育所

保育では、次のような業務が考えられます。

  • 連絡帳の文章作成補助
  • 保護者向けのお知らせ作成
  • 行事案内や園だよりの作成
  • 会議録や事故報告書の整理
  • 職員研修資料の作成

介護分野では、厚生労働省が介護テクノロジーによる生産性向上、職員負担の軽減、サービスの質向上に向けた支援や効果検証を進めています。

保育分野でも、こども家庭庁が保育ICTの導入や業務改善事例の展開を進めています。

今回の医師事務作業補助体制加算とは別の制度ですが、医療・介護・福祉・保育全体が、テクノロジーを前提とした業務設計へ移り始めていることは明らかです。

まとめ

令和8年度診療報酬改定で設けられた1.2人・1.3人換算について、重要なポイントは次のとおりです。

  • DX加算ではなく、医師事務作業補助体制加算の仕組み
  • 対象は主に病院と一定の有床診療所
  • 無床診療所、訪問看護、介護、福祉、保育は今回の制度対象外
  • 対象は一般の医療事務ではなく、医師事務作業補助者
  • 生成AIを導入しただけでは1.3人換算にはならない
  • 生成AI中心の要件では原則1.2人換算
  • 1.3人換算には音声入力、RPA、説明動画等の追加要件が必要
  • 導入前後の効果測定、研修、安全管理、利用記録が重要

今後、制度上の評価対象になるAI活用は、医療だけにとどまらない可能性があります。

人手不足が続く医療・介護・福祉・保育業界では、AIを「人を減らすための道具」ではなく、職員が利用者や患者と向き合う時間を増やすための道具として活用する視点が必要です。

制度の対象になってから準備するのではなく、まずは現在の業務を可視化し、AIで補助できる業務と、人が担うべき業務を整理するところから始めることが重要です。