クリニック採用難 ベースアップ評価料だけでは勝てない【2026年】

ベースアップ評価料を算定しても、採用競争には勝てない。 令和8年度の診療報酬改定で、看護補助者や医療事務スタッフへの賃上げ原資が制度的に手当てされた。看護職員等で3.2%、看護補助者・医療事務職員で5.7%のベースアップを目標とした加算だ。取らない施設は論外だが、問題はそのあとにある。近隣の同規模クリニックが全員この加算を取れば、同じ比率で賃金が上がる。底が上がるだけだ。差にはならない。 全員が同じ手を打った瞬間に、競争は別の場所で始まる。

ベースアップ評価料が「全員の当たり前」になった世界

令和8年6月の診療報酬改定で、外来・在宅ベースアップ評価料が本格始動した。新規に賃上げを実施する施設の場合、初診で17点(1点10円なので170円相当)、再診で4点が算定できる。2027年6月以降は初診34点・再診8点に倍増する予定だ。 (出典:GemMed 令和8年度診療報酬改定 ベースアップ評価料解説、確認日:2026年7月23日)

算定で得た収益は、基本給や毎月支払う手当の引き上げに充てることが義務づけられている。対象は幅広いが、業務委託で勤務する職員と40歳以上の医師・歯科医師・薬局薬剤師は対象外だ。 (出典:ジョブメドレー 2026年診療報酬改定解説、確認日:2026年7月23日)

制度の主旨は明確で、医療従事者の処遇改善を支援するものだ。取ることで院内の賃金水準は上がる。取らないと話にならない。

問題は、同じ評価料を近隣のクリニックが全員取れば、賃金水準は全員等しく上がるという点だ。医療事務スタッフや看護補助者を探している求職者から見ると、「A院もB院も同じくらいの時給」という状況ができあがる。ここで「うちは評価料を取って賃上げしたから大丈夫」と思って採用活動を止めると、空転する。翌月も翌々月も、応募が来ない。

差がつく場所はどこか。


賃上げを「見える化」できていないクリニックが多すぎる

うちがサポートしているクリニックのB院長から、今年の春先にこんな話を聞いた。「評価料を取って賃上げしたのに医療事務の応募が来ない」と。

求人票を確認したら、時給の欄が改定前の金額のままだった。実際はベースアップ済みだったのに、求人票への反映を忘れていた。スタッフの給与は5.7%上がっていたのに、応募者からは見えていなかった。

求人票を修正した翌週から問い合わせが増えた。

やったことはそれだけだ。

「賃上げ実施済み(2026年6月より)」の一行と、改定後の時給・月給の実額。これを求人票に載せることで、ベースアップ評価料の効果が初めて採用競争力に変わる。制度を取るだけでは採用では意味がない。求職者が読む媒体に書いて初めて機能する。


7月17日の疑義解釈(その10)が出た。算定要件を今すぐ確認する理由

令和8年7月17日、厚生労働省からベースアップ評価料を含む診療報酬改定の疑義解釈資料(その10)が発出された。 (出典:厚生労働省 令和8年度診療報酬改定ページ、確認日:2026年7月23日)

改定施行から2ヶ月弱で、疑義解釈はすでにその10まで積み重なっている。現場の「この場合は算定できるか」という実務上の疑問が、回を重ねるごとに解消されている状態だ。

ここで重要なのは、疑義解釈の蓄積が算定要件の「事後的な精緻化」だという点だ。施行当初の理解で算定を続けていると、後から要件の解釈が変わっていることに気づかないケースがある。6月の施行から算定を始めたクリニックは、その1からその10までの疑義解釈を一度通読して、自院の運用が最新の解釈に即しているかを確認してほしい。

「うちは問題ないはず」という感覚だけで進めていると、後で是正を求められる可能性がある。採用活動の前に、算定の根拠を固める作業が先だ。


採用よりも先に定着から手をつけると、コスト構造が変わる

採用が難しいと言われるクリニックに共通しているのは、離職率が高いことだ。毎年同じポジションで採用活動を繰り返している。求人広告費・紹介料・入職者の育成コストが、静かに経営を削る。

私が最初にやるのは、既存スタッフへのヒアリングだ。「辞めたいと思ったことはあるか」「仕事の中で一番しんどいのはどこか」を、匿名で出してもらう。たいていの場合、3〜5個の課題が出てくる。業務量の不公平感、有給の取りにくさ、指示系統の曖昧さ。これらは採用活動では解決しない。

定着率が上がると、採用が必要なポジションが減る。採用ポジションが減ると1人ひとりの選考に丁寧に向き合える。その施設が良い職場として口コミで広がっていく。採用コストを構造的に下げる、唯一の経路がここにある。

逆に、定着率が低いまま採用を続けると、求人広告費・紹介料・育成コストが毎年かかり続ける。底が抜けたバケツに水を注ぐのと同じ構造だ。

ベースアップ評価料の算定は必須だ。

しかしその原資を採用コストに転化する前に、今いるスタッフが来年もいる設計ができているかを確認してほしい。「人が辞めない仕組み」と「人が入ってくる仕組み」はまったく別の設計であり、両者を混同したままでは、どちらも中途半端に終わる。

採用競争に勝つとは、「良い人を取ること」だけではない。「いる人が辞めない状態を作ること」も含む。あなたのクリニックは、今どちらが先に必要か。


あわせて読みたい


出典・参考情報

※ 上記リンクは掲載時点のものです。行政機関等のページはURL変更・移転の場合があります。


株式会社Reliefのサービスで、事業運営を強力サポート!

株式会社Reliefは、医療機関や介護・福祉・保育施設の運営をトータルサポートする専門企業です。
業界特化型のオンラインアシスタント「セレナ」
月一回からはじめる事務長アウトソーシング「困ったときのじむちょー君」
バックオフィスの業務改善・効率化、MoneyForwardクラウドICT・クラウドDX導入支援
経営課題の解決や業務効率化を実現し、貴社の発展を全力でサポートいたします。