生活習慣病管理料 運用──廃止2年で見直す実務3点【2026】

「先生、これ、患者さんの署名を毎回もらってるんですか?」──6月の水曜、川崎の内科クリニックの控室で私が思わず口にした問いに、A院長は真顔で「そりゃそうでしょ」と返してきた。 あの30秒の沈黙で、私は気づいた。うちのクライアントの内科・小児科・整形の無床診療所を並べていくと、まだ半分近くが生活習慣病管理料の療養計画書運用を「毎月手書きで、毎月署名」の一番重い形で回している。 令和6年度診療報酬改定で特定疾患療養管理料から糖尿病・高血圧症・脂質異常症の3疾患が外れ、生活習慣病管理料へ移ってから、丸2年が過ぎようとしている。今日は、あの2年前の切替のときに"とりあえず"で組んだ院内オペを、2026年の今、見直すべき理由と、うちが実際にクライアントに勧めている3つの手当てを書いていく。

2年前の"とりあえず設計"を、今こそ棚から下ろすタイミングになった理由

無床診療所の院長と話していて一番よく出るのが、「2024年の切替は事務長に丸投げした。中身は、正直あまり覚えていない」という一言だ。 これは責めているのではない。令和6年度診療報酬改定の対応は、電子カルテ・レセコン設定・院内ポスター・患者同意フロー・スタッフ研修と、動くパーツが多すぎた。院長ひとりで見きれる規模ではなかった。 だから多くのクリニックは、2024年6月1日を「とにかく落とさずに乗り切る」ことに全ての力を使い、その暫定オペをそのまま2年間動かしてきた。 問題は、その"暫定"がすでに何本もの綻びを見せていることだ。うちで直近1年に入ったクライアントで、実際に見えた綻びを挙げるとこうなる。
  • 療養計画書を月1回、全患者に手書きで発行し続けていて、事務スタッフが半日以上取られている
  • 患者同意署名の運用がスタッフごとに違い、監査で指摘されそうな穴が残っている
  • 電子カルテ情報共有サービスへの接続を「うちはまだ様子見」で止めていて、他院との情報連携の入口を閉じたまま
制度は動かないが、運用は劣化する。2年経ったら見直す。これは補助金でも施設基準でも共通の原則だ。ここから3つ、私がクライアントに勧めている手当てを順に書いていく。

見直し1 療養計画書のテンプレを、季節キャンペーンの棚卸しと同じ頻度で更新する

最初にやるべきは、療養計画書のテンプレを一度、白紙から書き直すことだ。 生活習慣病管理料の算定要件として、療養計画書の作成と患者同意(署名)は動かない。ここは厚労省の保険診療関連通知の範囲で決まっている話で、うちに交渉の余地はない。 一方で、テンプレそのものは各院が自由に組める。ここに大きな差が出る。 うちのクライアントで一番よく効いた見直しは、テンプレの項目を「毎月書き足す欄」と「初回のみ書く欄」と「4か月ごとに見直す欄」の3層に分けたことだ。院長が毎回書き直しているつもりの目標体重・生活指導・服薬指導は、実は3層に分けられる。この整理を1回入れるだけで、月あたり事務スタッフの記入時間が数時間単位で落ちる。 ポイントは「テンプレは一度組んだら固定」ではなく、「季節キャンペーンの棚卸しと同じ頻度で見直す」と決めることだ。春先の花粉症の指導文、夏の脱水・熱中症の指導文、冬の受診間隔の注意文──指導内容の中身は季節で変わる。テンプレを固定した瞬間から、実態からズレていく。 うちでは4か月に1回、院長・看護師・医事の3人で30分だけ集まって、テンプレの文言を確認する時間を「電子カルテ更新会」と名付けている。この30分がないクリニックは、2年でテンプレが完全に化石化する。

見直し2 スタッフ間の同意署名オペを、誰が抜けても回る形に落とす

次にやるべきは、患者同意署名の運用の言語化だ。 「うちは口頭同意でずっとやってきたんですけど」と言われることが、正直、まだある。それを聞くたびに私は、次の一言で返す。「その運用、いま一番若い医事さんが辞めたら、残った人だけで再現できますか?」 答えが「うーん」なら、そのオペレーションは監査に持ち込まれた瞬間に崩れる。 保険診療における指導・監査は、都道府県ごとに厚生局の指導が入るが、そこで聞かれるのは「制度を知っているか」ではなく「決めたとおりに毎日動かしているか」だ。ここで詰まる。 うちが勧めているのは、療養計画書の同意取得を1枚のフロー図に落とすことだ。書く道具は何でもいい。Googleドキュメントでも、紙のクリップボードでもいい。ただし、次の5点は必ず入れる。
  1. 初回来院で、生活習慣病管理料の対象と判断した瞬間、誰が何を渡すか
  2. 署名を取るのは待合室か、診察室内か、会計時か、どこか一箇所に固定する
  3. 電子的同意(電子カルテ情報共有サービスなど)を使う場合の分岐条件
  4. 署名が取れなかった場合、その日の請求をどう扱うか
  5. 次回4か月後の再確認タイミングを、誰がリマインドするか
このフロー図を印刷して、スタッフルームの目に入る場所に貼る。それだけで、月末レセプト作業のときに事務が院長に確認に走る回数が、うちのクライアントでは体感で半分以下になった。

見直し3 電子カルテ情報共有サービスへの接続を、来週の30分ミーティングで議題にする

最後の1点は、電子カルテ情報共有サービスへの接続だ。 厚労省が進めている医療DXの推進のなかで、療養計画書の患者同意を電子的に取り扱える運用は徐々に整いつつある。まだ2026年の今、全国全てのクリニックが完全に対応済みかというと、正直そこまでは行っていない。ここは事実として認めた方がいい。 ただし、うちのクライアントで先に接続したクリニックの体感を聞くと、次のような話が出てくる。 「他院で管理していた同じ患者さんの経過を、当院で開いた瞬間に流れが見える。何度目かの入院歴も、飲んでいた薬も、こちらから電話をかけずに把握できる。これは診療の質そのものが上がる。」 これは私の言葉ではなく、うちのクライアントのD先生(都内の無床内科)の言葉だ。私が加工していない。 未接続のクリニックにとって、この差は正直、重い。2年後にはさらに開く。だから今、決断だけでもしておく必要がある。決断とは「接続するかしないか」の二択だけではなくて、「接続する場合、いつまでに、誰が、いくらの予算で動かすか」まで落とすことだ。 うちが勧めているのは、来週の朝礼の30分だけをこの議題に割くことだ。予算も、担当も、期限も、この30分で仮でいいから決めてしまう。決まれば、あとは動くだけになる。

2年前に暫定で組んだものを、2026年の今、正規で組み直そう

生活習慣病管理料の運用は、切替の瞬間の設計より、2年後の見直しの方が難しい。ここまで読んでくれた院長・事務長ならわかると思う。 うちが直近1年で伴走したクリニックで、この3つの見直し──テンプレの季節棚卸し、同意署名フローの固定、電子カルテ情報共有サービスへの接続決断──を一気通貫でやりきったところは、月あたりの事務工数と監査対応の準備時間の両方に体感で確かな余裕が出た、という声が続いた。数字はクリニックごとに違うが、方向は共通だ。 もし院内で誰が旗を振るかが決まらないなら、外の目を1回入れる価値はあると思う。うちがそれをやっている理由は、旗を振る役に慣れているクリニックほど、この3つの見直しの回転が速いからだ。

出典・参考情報

※ 上記リンクは掲載時点のものです。制度の詳細・最新の運用は厚生労働省の公式ページで必ずご確認ください。


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