訪問看護ステーション採用 病院勤務看護師に響く求人票3点【2026】

木曜の午後、関西圏のある訪問看護ステーション。管理者のEさんが、求人サイトの応募画面を閉じた。掲載から4週間、応募は2件。面接に進んだのはゼロ。うちに連絡が来たのは翌日だった。 「病院で経験を積んだ看護師さんに来てほしいんですが、全然手応えがないんです」 聞いてすぐに思った。求人票の中身が、届くべき人に届いていない。

病院看護師が訪問看護に来ない「本当の理由」とは何か

訪問看護への転職を検討する看護師が増えている。夜勤のない働き方、患者と深く関われる環境、地域での自律した仕事。魅力は確かにある。 でも、実際の応募数は伸びない。 公益財団法人日本訪問看護財団は2026年6月、こんな事実を公式サイトに掲載した。「訪問看護師の賃金の状況は、他の看護職員に比べて低い状況にあります」(日本看護協会調査結果より、日本訪問看護財団が引用)。 これが正直なところだ。夜勤がなくなれば深夜手当も消える。急性期病棟と同じ基本給設定のステーションが多く、月収換算で差が出やすい。 「夜勤したくないけど、給料は下げたくない」というのは、病院勤務看護師の本音として珍しくない。求人票がいくら「やりがい」を強調しても、「給料はどうなるの?」という疑問が解消されない限り、ページを閉じられるだけだ。 ここに気付いているステーションと、気付いていないステーションで、採用力に大きな差が生まれている。

令和8年度改定のベースアップ評価料、届け出ていますか

実は令和8年度の診療報酬改定で、訪問看護ステーションの賃上げを後押しする制度が整備されている。訪問看護ベースアップ評価料(Ⅰ)および(Ⅱ)だ。 厚生労働省の特設ページ(令和8年度診療報酬改定におけるベースアップ評価料等について)によれば、医療機関や訪問看護ステーションがこの評価料を算定するためには、管轄の地方厚生局に届出を行う必要がある。届出はExcelファイルを専用メールアドレスに送るかたちで完結する。 ところが日本訪問看護財団は、「届出が伸び悩んでいます」と明示した(日本訪問看護財団 2026年6月19日)。理由として「計算が大変で難しそう」「どうすればいいか分からない」というステーションが多いことを挙げている。 届出を出せていなければ、賃上げのための報酬を算定できない。算定できなければ、求人票に「賃金改善済み」と書けない。そのまま「やりがいのある仕事です」だけを掲げていても、病院勤務の看護師は動かない。 日本訪問看護財団は2026年8月31日まで、1〜3ヶ所のステーションを運営する法人向けに無料相談窓口を設けている。火曜・木曜の10時から16時、電話番号は03-5778-7004だ。まずここに電話して届出を完了させることが、採用改善の起点になる。

求人票に「ベースアップ評価料算定済」と書けると何が変わるか

ベースアップ評価料の届出が済んだら、求人票に書き方の工夫が必要だ。 よくある書き方は「月給25万円〜」という数字の提示だけだ。これでは病院側の待遇と比較されてオシマイになることが多い。 有効なのは「根拠を添える」書き方だ。 たとえば「訪問看護ベースアップ評価料(Ⅰ)算定済み。令和8年度診療報酬改定にもとづく賃金改善を実施しています」という一文を加える。病院勤務が長い看護師ほど制度に詳しく、「ここはちゃんと制度を使っている」という信頼感に直結する。 給与の数字に加えて、「夜勤手当なし・オンコール手当あり(1回あたり〇〇円)」のように手当構成を分解して示すと、実態がイメージしやすくなる。病院の夜勤手当がなくなる分、オンコール手当や訪問加算がどう補完するかを具体的に見せることが、比較検討しやすい求人票につながる。

「やりがい」は書かない。その代わりに書く3つの具体

ここで差をつけるのは「やりがい」という言葉を使わないことだ。 「在宅でのやりがいがあります」は書かない。代わりに「月に〇件の看取りに関わります」「精神科訪問看護の件数が増えており、加算算定の実績があります」のように、実際に何に関わるかを示す。 病院勤務では診療科ごとに専門が分かれる。一方、訪問看護ではがんの終末期から小児の医療的ケア、精神疾患まで幅広い対象と関わる。これは「スキルが広がる」ではなく「複数の専門領域を同時に担う」という意味で、経験年数が長い看護師ほど価値を感じやすい。 Eさんのステーションが求人票を見直した際、「当ステーションでは精神科訪問看護研修を受けたスタッフが対応しています」という一文を加えた。これだけで「精神科 訪問看護」というキーワードで検索してくる層が増えた、と後日連絡をもらった。

求人票パターン3「夜勤ゼロ」は正直に書くと刺さる

夜勤がないことは、訪問看護の最大の訴求点の一つだ。ただし「夜勤なし」とだけ書くと、「でもオンコールがあるでしょ」と思われてフィルターにかかる。 オンコールの実態を正直に示すことで、かえって信頼が上がる。 「オンコール月平均〇回、緊急訪問の実績あり(月〇件程度)」のように数字を出す。不確かな安心感より、正直な情報の方が動ける人に届く。 くわえて「1日の訪問件数の上限を設けています(〇件まで)」「車での移動が中心で訪問先は徒歩〇分圏内」など、体力面のリアリティを伝えると、「いつも走り回るイメージ」を払拭しやすい。 うちがコンサルに入るときは、求人票の「夜勤なし」という表現を「日勤のみ(オンコール手当あり・月平均〇回)」に変えただけで、面接まで進む率が変わった事例をいくつも見ている。夜勤がないことと、緊急対応が完全にないことは別の話だ。正確に伝えた方が、ミスマッチが減って定着率が上がる。

届出の先に「選ばれるステーション」がある

ベースアップ評価料の届出は、単なる収入増加のための手続きではない。「国の制度を正しく使えるステーション」という経営姿勢を示すことでもある。 求人票に「令和8年度診療報酬改定にもとづく賃金改善を実施」と書けるステーションと書けないステーションでは、病院勤務看護師の目に映る印象が変わる。 Eさんとの話で最後に確認したのは「届出の状況」だった。まだ未提出だった。相談窓口を紹介し、翌週に電話してもらった。その後、届出が完了したことをSlackで報告してくれた。 求人票の言葉を変えるのは5分でできる。でもその言葉に信頼性を持たせるのは、日々の制度対応の積み重ねだ。

出典・参考情報

※ 上記リンクは掲載時点のものです。制度の詳細は各公式サイトをご確認ください。


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