居宅ケアマネ処遇改善加算、6月開始──届出期限と3つの落とし穴

「うちのケアマネ、また求人サイトを見てるって聞いたんですよ」 ── 今月初め、居宅介護支援事業所を運営するA所長から、そんな話を電話で聞いた。仕事量は増える一方なのに、給与だけが何年も変わらない。「介護施設に転職したほうが給料が上がる」という話が、スタッフ間に広まっているのだという。正直、聞きながら胃が重かった。でも今週、その状況を変えられる制度がついに動き出す。

ケアマネだけが「賃上げの蚊帳の外」だった理由

2009年から始まった介護職員処遇改善加算は、15年かけて介護施設・事業所のほぼ全サービスに広がってきた。ところが、居宅介護支援(ケアマネ事業所)だけは長年にわたって対象外のままだった。 なぜか。制度の出発点が「直接介護を担う介護職員の賃上げ」だったからだ。ケアマネは介護職員ではなく「専門職」に分類される。対人援助のコーディネートが主業務のため、制度の枠の外に置かれてきた。 その結果、何が起きたか。同じ事業所の中で、ヘルパーや介護福祉士には処遇改善加算が毎年積み上がっていく。隣に座っているケアマネの給与は横ばいのまま。処遇の逆転現象が起き始め、「介護職に戻った方が稼げる」と資格を棚に上げる人が出てきた。 「ケアマネ不足」は、単なる資格者の減少ではない。報酬構造の歪みが積み重なった結果だ。

6月から何が変わるのか──2.1%加算の中身を計算する

令和8年度介護報酬改定(期中改定)により、2026年6月1日から居宅介護支援・介護予防支援に処遇改善加算が新設される。これまで対象外だったサービスへの初適用だ。 加算率は2.1%(21/1000)。事業所が算定する所定単位数に2.1%を掛けた額が、職員への賃金改善原資になる。 具体的に計算してみる。担当件数140件の居宅介護支援事業所(地域単価11.40円の6級地)を想定すると、1ヶ月の所定単位数は約256,480単位。これに2.1%を掛けると5,386単位、金額にして約56,123円/月が加算原資として入ってくる計算だ。 職員数によって1人あたりの配分は変わるが、厚労省が示す月額改善目標は月1万円以上(定期昇給約2,000円を含めると最大月1万9,000円)。「加算がない状態」と比べれば、賃金設計の幅が全然違う。 ただし、このお金は届出をしなければ一円も入ってこない。

届出期限は6月15日──今週が動くかどうかの分かれ目

処遇改善加算に関する事務処理手順(老発0313第6号、令和8年3月13日)によれば、6月から加算を取得しようとする場合の処遇改善計画書の提出期限は6月15日。体制届出は5月15日〜6月1日の間に完了させておく必要がある。 今日が5月28日。計算すると残り18日だ。 必要な書類は主に2点:
  • 処遇改善計画書(令和8年度版)
  • 体制等状況一覧表
提出先は都道府県または市区町村(居宅介護支援の指定権限が移行した自治体はそちら)。大阪府のように行政オンラインシステムのみ受付で紙が使えない自治体もあるため、まず管轄窓口の確認が先決だ。 「もう間に合わない」と思った方は、7月からの取得も選択肢に入る。7月以降であれば算定開始月の前々月末日が届出期限になる。焦って要件が整わないまま届け出るより、1ヶ月後ろ倒しで確実に準備した方が後々トラブルが少ない。

算定を急いで詰む──3つの落とし穴

「取れると思っていたのに取れなかった」という相談を、私はこれまで何件も受けてきた。居宅介護支援への処遇改善加算には、見落としやすい注意点がある。 落とし穴①:上乗せ加算の対象外 居宅介護支援に新設されるのは基本の処遇改善加算相当のみ。介護施設が算定できる「特定処遇改善加算」「ベースアップ等支援加算」に相当する上乗せ部分は、今回の改定では居宅介護支援に適用されない。施設系サービスと同じ水準の賃上げができるわけではない、という前提で計画を立てる必要がある。 落とし穴②:キャリアパス要件の書面がない 処遇改善加算Q&A(第1版)にも示されているキャリアパス要件I・IIは、「職位・職責・賃金体系の就業規則上の整備」を求める。「そういう仕組みはあるつもりだけど書面にはない」では算定できない。今週、就業規則を開いて確認しておく価値がある。 落とし穴③:実績報告を忘れる 加算を取得したら終わりではない。賃金改善の実績報告書を、賃金改善実施後2ヶ月以内(原則7月末)に提出しなければならない。受け取った加算原資をどこにどう分配したかを、書類で証明する義務がある。「実際に給与を上げたが書類がない」というケースが、後から返還請求に発展することがある。

ケアマネが定着する事業所と辞め続ける事業所の差

処遇改善加算は「取れば解決」ではない。月1万円増えても、業務量が変わらなければ疲弊は続く。 それでも加算を整えている事業所と、整えていない事業所では、採用市場での立ち位置が変わる。求職中のケアマネは、同条件ならば処遇改善加算が整っている事業所を選ぶ。これが今後の採用競争に直結する。 「制度が動いたタイミングで整えた事業所」と「乗り遅れた事業所」の差は、3〜5年後のスタッフ構成として出てくる。今週の動きが、そこにつながっている。 A所長に折り返しの電話をして、この話をした。「6月15日までに書類を出してみます」という返事だった。1本の届出で変わるかもしれない話だから、私も少し気が楽になった。

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出典・参考情報

※ 上記リンクは掲載時点のものです。制度改正等により変更になる場合があります。