2027改定前に知る——訪問介護「9.6%利益率」が示す本当のリスク

5月7日の夜、介護施設のA理事長からLINEが届いた。「財務省の数字に怒っています。訪問介護が9.6%も儲かっているって、どこの施設の話ですか」。画面の前で、思わず苦笑した。気持ちはわかる。うちのクライアントには訪問介護事業所も複数いるが、9.6%という数字を聞いて「そうです、儲かってます」と答えた人間は一人もいない。 ただ、怒る前にまず、あの数字の「中身」を一緒に見てほしい。財務省が出した数字には、ある構造的な問題が隠れている。そこを理解しないまま感情だけで動くと、2027年度改定で本当に必要な準備ができなくなる。今日はそれを書きたい。

財務省が出した「9.6%」、その数字の出どころを確かめた

2026年4月28日、財務省は財政制度等審議会・財政制度分科会を開催し、社会保障制度の持続可能性について議論した。介護分野では、来年度(2027年度)に控える報酬改定に向けて、こう踏み込んだ。

「複数の介護サービスの利益率が他産業と比較して高い。介護サービスの類型や提供実態に応じて介護報酬を適正化する必要がある」

この発言の根拠になったのが、厚生労働省の介護経営実態調査(2024年度決算)のデータだ。介護ニュースJointの報道(2026年4月28日)によると、主な数値は以下のとおりだった。

  • 介護サービス全体平均:4.7%
  • 訪問介護:9.6%
  • 訪問看護:10.3%
  • 通所介護:6.2%
  • 居宅介護支援:6.2%

(いずれも税引前収支差率。物価高騰対策関連補助金を含まない数値)

財務省はこれについて「足元で物価上昇の影響がある中でも、過去や他産業と比較して高い水準」と分析し、一部のサービスには報酬を引き下げる余地があるとの見方を示した。

この数字を初めて見たとき、私も「おかしい」と思った。ただ、私が感じた違和感は「数字が嘘だ」ではなく「この数字の中に、まったく違う性質のものが混ざっている」という直感だった。


「平均値」がいかに嘘をつくか——9.6%の裏に潜む2つの世界

訪問介護の事業所と一口に言っても、実態は大きく2種類に分かれる。

一つ目は、住宅型有料老人ホームや高齢者向け住宅に隣接・附設された事業所だ。これらの施設では、利用者が同じ建物または隣接棟に住んでいる。移動時間はほとんどゼロ。1日に複数の利用者を短時間でサービスできるため、労働時間あたりの報酬効率が極めて高い。結果として、収益性は「訪問介護」という名称からは想像できないほど高くなる。

二つ目は、一般的な在宅生活者を対象とする事業所だ。こちらはスタッフが利用者宅を1軒ずつ訪問する。移動時間・待機時間が発生し、天候や交通事情にも左右される。人手不足の中で稼働率を上げることは容易ではなく、利益率は1つ目の附設型と比べると雲泥の差がある。

制度上、この2種類は同じ「訪問介護」として扱われている。当然、平均を出せば附設型の高い数字が全体を押し上げる。9.6%という数字は、あくまでもこの混在した平均値だ。

A理事長のところは在宅型。スタッフが毎日バイクで利用者宅を回っている。感覚的に「儲かっている」とは程遠い。それでも「訪問介護は9.6%儲かっている」という一本の数字で括られてしまう。そのへんが、この問題の一番しんどいところだ。

財務省はこの歪みを知らなかったのか。おそらく知っている。だからこそ、2027年改定の方向性は「ある一点」に絞られる可能性が高い。


「同一建物減算」が2027年改定の最重要論点になる理由

財務省の発言をもう一度よく読むと、「介護サービスの類型や提供実態に応じて適正化」という言い方をしている。全体を一律に下げると言っているのではなく、「種類ごとに見直す」という含みがある。

現在の制度にも、附設型の高収益性を抑制するための仕組みとして同一建物減算が設けられている。同一の建物に居住する利用者に訪問サービスを提供した場合、報酬が一定割合減算されるルールだ。ただし、業界内では長らく「減算率が実態に比して低すぎる」という声があった。

介護ニュースJointの同日報道(2026年4月28日)によると、財務省は居宅介護支援の報酬については「利用者のウェルビーイングや給付費の抑制の観点から、本来、自立や要介護度の改善を促進する構造にすべき」とも指摘している。報酬体系そのものを、成果・実態に応じた形に組み換えようという方向感が出てきている。

2027年度改定に向けて、介護給付費分科会も2026年4月27日から議論を開始した。当面の最大の焦点は「賃上げ財源の確保と経営安定の両立」だが、その議論の中で附設型と在宅型の収益格差をどう扱うかは避けて通れないテーマになる。

もし同一建物減算が強化されれば、附設型モデルに依存してきた事業者にとっては収益の前提が根本から変わる。これは単なる単価の微調整ではなく、ビジネスモデルそのものの転換を迫られるシナリオだ。

では、住宅型有料老人ホームに附設していない、普通の訪問介護・居宅介護支援はどうなるのか。


附設型でない事業所に残された選択肢——たった1つの必須条件

率直に言う。在宅型の訪問介護・居宅介護支援が、今回の改定で「利益率が高いから削る」という矢の主要ターゲットになる可能性は、相対的に低いと私は見ている。

財務省が問題視しているのは、附設型の構造的高収益だ。在宅型の事業者は、そもそも9.6%という平均値の「押し上げ側」ではない。改定の焦点が「類型・提供実態に応じた適正化」である以上、在宅型をまとめて削ることは、この方針と矛盾する。

ただし、ここで見落としてはいけないことがある。財務省はもう一つ、大事な文脈を示している。「介護報酬による賃上げのみならず、介護現場が生産性向上に取り組み、対応可能な利用者が増えて収益が増加することで、職員の賃上げとさらなる生産性向上の投資につながる好循環を実現することが重要」という部分だ。

言い換えると、生産性向上に取り組んでいる事業者には報酬面での優遇が続く可能性がある。一方で、テクノロジー導入を先送りにしてきた事業者は、加算機会を失うリスクが高まる。この流れは介護だけでなく医療でも同じ方向で動いている。

うちのクライアントに話すときは、いつもこう整理している。

  1. 自分の事業所が「附設型」か「在宅型」かを把握する
  2. 附設型の比率が高ければ、2027年に向けた収益モデルの組み換えを今から検討する
  3. 在宅型であっても、ICT・介護記録ソフト・データ連携の導入を先送りにしない

3番目が、今のところ最も見落とされやすい。「うちは在宅型だから関係ない」ではなく、「生産性向上に取り組んでいるかどうか」が加算要件として問われる時代がすでに来ている。テクノロジー導入は2027年改定では「加算の前提条件」になる可能性が高い、と私は読んでいる。

A理事長へのLINEの返信は、最終的にこうした。「怒るのはいい。ただ、怒りで動くより数字で動いた方が生き残れます。一度、現状の事業モデルを一緒に整理しましょう」。

了解、と短い返信が来た。それだけで十分だ。

あなたの施設は、9.6%という数字の「どちら側」にいるか。そこを一度、冷静に見てみてほしい。


出典・参考情報

※ 上記リンクは掲載時点のものです。省庁サイトのURL変更により、リンク切れが生じる場合があります。


あわせて読みたい


株式会社Reliefのサービスで、事業運営を強力サポート!

株式会社Reliefは、医療機関や介護・福祉・保育施設の運営をトータルサポートする専門企業です。
業界特化型のオンラインアシスタント「セレナ」
月一回からはじめる事務長アウトソーシング「困ったときのじむちょー君」
バックオフィスの業務改善・効率化、MoneyForwardクラウドICT・クラウドDX導入支援
経営課題の解決や業務効率化を実現し、貴社の発展を全力でサポートいたします。