介護テクノロジー導入が賃上げ条件に?財務省の要請と施設の準備

水曜の朝9時、大阪市内の訪問介護ステーション。 事務所の隅に積まれたA4用紙の束が、今日も手つかずのままだ。介護記録はまだ紙だ。ケアプランのデータ連携もしていない。所長のA氏は「いつかはやらないと」と思いながら、今月も「いつか」のまま来てしまった。 財務省が4月28日に放った一言が、その「いつか」を終わらせるかもしれない。

財務省が「テクノロジー導入も賃上げ要件に」と言い出した日

2026年4月28日、財政制度等審議会・財政制度分科会が開催された。テーマは社会保障制度の今後の改革。その中で、来年度(2027年度)の介護報酬改定について、財務省がはっきりとこう要請した。

「訪問介護・通所介護などのサービスで、介護記録ソフトをはじめとする介護テクノロジーの導入を、処遇改善加算の取得要件に追加すべきだ」と。

これは審議会への「提案」であり、今この瞬間に加算要件が変わるわけではない。2027年度改定に向けた議論の入口だ。ただし、財務省が審議会でこれを明言したという重みは、現場のリーダーにはきちんと受け取ってほしい。財務省の要請は「通告」に近い性格を持つことが多い。

ではなぜ、財務省はここでテクノロジー導入を要件に絡めようとしているのか。その答えは一つの数字に隠れている。


ケアプーの導入率が3倍になった本当の理由

ケアプランデータ連携システム(通称・ケアプー)をご存じだろうか。ケアマネジャーが作成したケアプランのデータを、訪問介護・通所介護などのサービス事業者とデジタルで連携する仕組みだ。

このケアプーの導入率が、2025年11月時点では9.3%だった。それが2026年3月には28.2%まで跳ね上がった。4ヵ月で3倍以上。普及施策としては異例の速さだ。

財務省はこの急伸の理由を分析している。結論は単純だ。「ケアプーを導入すれば処遇改善加算の算定要件を一部満たせる」というインセンティブ付けが功を奏した、と。

言い換えれば、介護事業者は理念や「やるべきこと」だけでは動かない。お金(加算)と紐付けて初めて、現場が動く。財務省はそのメカニズムを正確に理解していて、「同じ手法をもっと使え」と言っているわけだ。

次の標的は、介護記録ソフトなどのテクノロジー全般だ。そこから生じる疑問がある──実際に要件化されたら、何が変わるのか。


テクノロジー要件化が現実になったら、加算取得に何が変わるか

現時点(2026年5月)では、財政制度分科会の審議資料に財務省の要請が記されている段階だ。2027年4月施行の報酬改定に向けて、今後厚生労働省の介護給付費分科会で具体的な制度設計が議論される流れになる。

もし要件化が現実になったとして、想定される変化はこうなる。

  • 介護記録ソフトの未導入施設は、処遇改善加算IIIの上位区分が取れなくなる可能性
  • ケアプランデータ連携(ケアプー)を導入していない訪問介護・通所介護は、加算区分が下がるリスク
  • 紙ベース運用を続けている施設は、テクノロジー要件クリアのために一定の初期投資が必要になる

ここで気をつけてほしいのが、「要件化が決まってから動けばいい」という発想だ。

介護記録ソフトの導入には、選定・契約・スタッフ研修・運用定着まで、早くて3〜6ヵ月かかる。2027年4月の施行に間に合わせるには、遅くとも2026年秋には動き出す必要がある。決定を待っていると、そのまま春になる。

「介護記録ソフトすら入れていない」──そういう施設が今、何のリスクを抱えているか。次はそこを見てほしい。


「介護記録ソフトすら入れていない」施設が直面するリスク

うちのクライアントの話をしてもいい。

訪問介護ステーションのB所長から、先月こんな相談があった。「処遇改善加算はIIで届出しているんですが、これ以上上の区分に上げるには何が必要ですか?」。うちのスタッフが現状確認をしたところ、介護記録はすべて手書きの紙、ケアプーも未導入、スタッフ間の情報共有はLINEだった。

この状態で加算区分を上げようとすると、キャリアパス要件や職場環境等要件の書類整備だけでも相当の負担になる。仮にテクノロジー要件まで加わったとしたら、一気に積み上がる。

紙運用を続けることのリスクは、ただの「非効率」ではない。将来の加算取得に直結する構造的リスクだ。財務省が「インセンティブ付けが効果的」と言った以上、次の改定でその圧力は強くなる一方だ。

ただ、リスクを並べるだけで終わっても仕方ない。今からできる準備がある。


今やるべき3つの準備──先に動いた施設が有利になる理由

要件が確定する前に動くことの最大のメリットは、「比較検討の余裕」だ。決定後に動く施設が増えると、介護記録ソフトのベンダーは値引きをしなくなる。補助金も早い者勝ちになる。

今できる3つの準備を具体的に書く。

① 現状の処遇改善加算区分と要件充足状況を棚卸しする
処遇改善加算・特定処遇改善加算・ベースアップ等支援加算の3つが統合されたのが2024年度改定だった。自分の施設が今どの区分で、どの要件が満たされていてどれが未達なのかを、まず把握する。ここが起点だ。これをやっていない事業者が、驚くほど多い。

② 介護記録ソフトの選定と補助金の確認
介護記録ソフトの導入には、IT導入補助金(経済産業省)や各都道府県の補助制度が使える場合がある。2026年度の公募状況を確認し、自施設が対象になるかを見ておく。ソフトを選ぶ前に補助制度を調べるのが正解だ。先に契約してしまうと、補助の対象外になることがある。

③ ケアプランデータ連携(ケアプー)の導入準備
訪問介護・通所介護を運営しているなら、ケアプーの導入は早期に動いた方がいい。導入の際には厚生労働省のケアプランデータ連携システムのページで最新情報を確認してほしい。国保中央会が運営する仕組みで、ケアマネとのデータ連携コストが大幅に下がる。先に導入している施設は、ケアマネからの評価も上がっている。

財務省が「インセンティブ付け」を意図的に使っている以上、動いた施設と動かなかった施設の差は、次の改定でそのまま報酬の差になる可能性がある。

「決まってから考える」で間に合った時代は、もう終わったかもしれない。


出典・参考情報

※ 上記リンクは掲載時点のものです。制度の詳細・最新情報は各一次情報源でご確認ください。


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