人員欠如減算に3ヶ月猶予が付いた──6月施行の特例を使う4条件を確認せよ

もしあなたが今、介護職員や看護職員の急な離職に直面している施設の経営者・管理者なら、今月中に一つだけ確認しておいた方がいい。 6月1日から、人員欠如減算に「最大3ヶ月の猶予期間」が付く特例が始まる。 知らないまま減算を受け続けている施設と、特例を使って立て直した施設の差は、制度を知っているかどうかの差だけだ。

人員欠如減算が経営を直撃する仕組み──気づいたときには3ヶ月分の損失

介護保険法では、指定を受けた事業所は「人員基準」を常時満たすことが義務付けられている。訪問介護なら管理者・サービス提供責任者・訪問介護員の配置数、老健なら医師・看護職員・介護職員の人数と比率が法令で定められている。 問題は、この基準を下回った月に即座に減算が発動することだ。
  • 通常は、人員基準欠如が判明した月の翌月から減算対象
  • 介護職員・看護職員が基準の1割超を割り込んだ場合、報酬の30%減算
  • それ以外の職種が基準を下回った場合、報酬の10%減算
  • 欠如が解消されるまで継続(3ヶ月でも6ヶ月でも)
私がよく聞く話は「突然2人辞めて、気付いたら翌月から減算だった」というパターンだ。中規模の訪問介護事業所なら、30%減算が3ヶ月続けば数百万円規模のダメージになる。採用が間に合わないまま経営が傾くケースも珍しくない。 では6月から何が変わるのか。ここが重要だ。

令和8年6月施行──「突発的な欠員」だけに使える特例の全体像

厚生労働省は2026年5月8日付の介護保険最新情報 Vol.1502で、人員基準欠如減算に関する特例的な取扱いのQ&Aを公表した。施行日は2026年6月1日。 この特例の核心は一文に集約される。「突発的で想定が困難なやむを得ない事情」による一時的な人員欠如であれば、減算の適用を**最大3ヶ月間、年1回に限り**猶予できる。 ただし、この特例は「採用努力をしている事業所」を前提に設計されている。つまり、ただ申請すれば猶予されるわけではない。4つの要件を全て満たした場合にのみ使える制度だ。 この4要件が、現場の管理者にとって一番の実務上のポイントになる。次で一つずつ確認する。

猶予を使える4要件──1つでも欠けていると申請は通らない

Vol.1502のQ&Aに基づき、4要件を整理する。
  1. 公的機関での求人活動を行っていること
    ハローワーク(公共職業安定所)や都道府県の福祉人材センターへの求人登録が必須。「自社SNSだけで告知している」では要件を満たさない。
  2. 民間人材紹介業者を使う場合は「適正認定事業者」を含めること
    民間の紹介会社を利用するなら、厚生労働省が認定した「医療・介護・保育分野における適正な有料職業紹介事業者の認定制度」の認定を受けた業者を少なくとも1社含めること。意外と見落としがちな要件だ。
  3. 自社のホームページ等で採用広報を行っていること
    求人情報を自社サイトや採用専用ページで公開していることが求められる。ただし「ホームページを保有していない事業所」はこの要件が免除される。規模の小さい地域密着型の事業所にとっては、この免除規定は助かる。
  4. 既存職員への過度な負担を回避する勤務体制を確保していること
    欠員をカバーするために残りのスタッフに過重労働を強いていないこと。具体的には、労働時間の適正管理と勤務シフトの合理的な配置が確認できる体制が必要になる。
この4要件が揃って初めて「特例届出」が提出できる。どれか1つでも欠けていると、猶予が認められない。実際に書類を準備するとき、私の経験上、一番詰まるのは「②の適正認定事業者」の要件だ。普段から付き合いがある紹介会社が認定を受けているかどうか、今のうちに確認しておいた方がいい。 では実際の届出手順はどうなっているか。

届出の手順と提出期限──欠員が出てから「翌月末」が全て

猶予特例の届出はサービス種別ごとに用意された専用の届出書様式を使う。提出先は事業所の指定を受けた都道府県または市区町村の担当窓口になる。 タイムライン:
  • 欠員発生月:できる限り早期に4要件を満たした採用活動を開始する
  • 欠員発生月の翌月末まで:特例届出書を提出。これが提出期限。翌月末を過ぎると猶予が認められなくなる可能性があるため、欠員が発生したら即座に動く必要がある
  • 添付書類:有効な求人票の写し(ハローワーク等の求人票、あるいは求人サイトのスクリーンショット等)
  • 猶予期間:欠員発生月を含む最大3ヶ月。この間は減算が猶予される
注意点が一つある。この制度は「年1回・1事業所あたり」が上限だ。2回目の突発的な欠員が同年度内に起きても、特例は使えない。 欠員が出たときに慌てないために、「誰が、いつ、どこに届け出るか」の手順を事前にマニュアル化しておくことを強く勧める。私が見てきた施設の中で、こういう突発事態に強いのは、緊急時対応の手順書を持っている事業所だった。 しかし、「うちには当てはまらないだろう」と思っているところほど、次のケースに当てはまっていることがある。

対象外ケース──「慢性的な人手不足」は特例が使えない

厚生労働省のQ&Aでは、特例が適用されない典型的なケースも明示されている。
  • 介護職員・看護職員が基準から1割超減少している場合:この水準になると、そもそも特例ではなく通常の減算制度で対応することになる。軽微な欠員に対して使える制度という前提を忘れないこと。
  • 慢性的な人手不足が原因の場合:「突発的で想定困難」が適用条件。長期にわたって人員基準ギリギリの状態で運営してきた事業所での欠員は、突発的とは認められない可能性がある。
  • 採用活動をしていない場合:届出書類に求人票の写しを添付できない事業所は対象外。特例は「頑張って採用しようとしているが間に合っていない事業所を守る」制度であって、採用放棄の施設を救う制度ではない。
ここが一番厄介な部分だ。「うちは突発的に辞めたんだ」と思っていても、行政の判断では「事前に予見できた」と判断されるケースがある。特に、事前に複数のスタッフから不満の声が出ていたような場合は注意が必要だ。 6月1日まであと2週間を切っている。4要件の確認と、万一の場合の届出フロー整備を今週中に一度チェックしてほしい。

出典・参考情報

※ 上記リンクは掲載時点のものです。制度の詳細・最新情報は厚生労働省公式サイトおよび指定権者にご確認ください。


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