2026年介護保険法改正案:住宅型ホームと地方施設の3大変更点
なぜ今「介護保険法改正案」が施設経営者の会議室を揺らしているのか
2026年の通常国会に提出されている介護保険法改正案が、施設経営者の間で急速に話題になっている。 きっかけは5月12日のことだ。「認知症の人と家族の会」が全国の国会議員宛てに緊急要望書を提出した。タイトルは「介護保険改正案は制度の根幹を揺るがす」。業界紙がこれを一斉に取り上げた翌朝、A理事長からのLINEが届いたわけだ。 今回の改正案には、住宅型有料老人ホームを運営する事業者にとって無視できない変更が少なくとも3点含まれている。- 住宅型ホームの中重度入居者に対する新しい介護支援区分(登録施設介護支援)の創設
- 利用者への1%自己負担の導入
- 過疎地域向け「特定地域サービス」による人員配置基準の緩和
変更点①──「登録施設介護支援」新設と1%負担が招く実務の変化
今回の改正案の目玉が、「登録施設介護支援」という新しい介護支援区分の創設だ。 対象は、住宅型有料老人ホームに入居する中重度の利用者。この区分では、ケアプランの作成と生活相談支援が提供されるが、利用者に1割(10%)の自己負担が求められる。 現行制度では、居宅介護支援(ケアプラン作成)の利用者負担はゼロだ。住宅型ホームの中重度入居者について、1割負担が生じる形になる点が大きな変化だ。 国側の説明はシンプルだ。「サービス誘導の防止と給付費抑制」。同一グループ内のデイサービス・訪問介護だけが組み込まれたケアプラン──いわゆる「囲い込み」の問題は、業界内で長年指摘されてきた。1割負担を課すことで、ケアプランをどこの事業者に依頼するか、入居者・家族が自覚的に選択する仕組みを作ろうという発想だ。 「家族の会」が強く反発しているのはこの点だ。施設の入居者と在宅の利用者でケアプランの負担が異なるという構造は「制度の公平性を損なう」と主張している。また、1割負担の導入によって「利用者の生活を直撃する」という懸念も示されている。 施設を運営する側にとっての実務的なインパクトは二層ある。 第一層は入居者・家族への説明負荷だ。登録施設介護支援が施行されれば、「どの事業所にケアプランを頼みますか」という説明と選択支援が必要になる。現状で自グループの居宅介護支援事業所に一任している施設では、この対応をどう整理するかが問われる。 第二層はケアプランの委託先関係の見直しだ。1%負担が生じることで、入居者・家族が外部の居宅介護支援事業所を選ぶ比率が上がる可能性がある。自グループのサービス利用率の変化と、それに伴う収益構造への影響をあらかじめ試算しておく必要がある。 「囲い込み」という言葉が出たとき、反射的に「うちは違う」と思う経営者は多い。ただ、法律が変わる以上、構造そのものを見直しておく必要がある。そして変更点②の「特定地域サービス」は、住宅型ホームとは無縁に見えて、実は介護業界全体の経営基盤を揺さぶる中身を持っている。変更点②──「特定地域サービス」という緩和策が孕むリスク
もう一つの大きな変更が、「特定地域サービス」の創設だ。 人口減少が著しい過疎地域を対象に、通常の介護保険サービスの枠組みをある程度外してサービス提供を継続できるようにする制度だ。主な変更点は次の通り。- 管理者・専門職・夜勤担当者などの人員配置基準の緩和
- 自治体が保険外の枠組みでサービスを事業として提供できるようにする
なぜ今この改正が動いているのか:国が描く医療・介護の一体化と財源圧縮
2025年から2027年にかけて、医療・介護の制度改革はほぼ同時並行で進んでいる。2026年4月の診療報酬改定、同年6月の介護報酬改定、そして秋ごろに予定される介護保険法改正の施行。これらはバラバラの動きではない。 財務省はこれまでの審議会でも介護施設の収支状況を繰り返し俎上に載せており、給付費の伸びを抑えたい国の姿勢は各種審議の経緯からも明確だ。2027年度の介護報酬改定に向けた議論も始まっている。 今回の介護保険法改正案にある「登録施設介護支援への1%負担」も「特定地域サービスによる基準緩和」も、給付費抑制という文脈から切り離して読むことはできない。 住宅型ホームの「囲い込み問題」の解決策として登録施設介護支援を位置づけながら、その実態は給付費の一部を利用者負担にシフトする構造になっている。地方の人員基準緩和は、施設維持コストの削減という国の意図も透けて見える。 経営者として、この構造を理解したうえで、「どこで戦うか」を決める必要がある。反発の声が示すもの:制度への信頼が揺らぐとき、誰が損をするか
「認知症の人と家族の会」の緊急要望書が全国会議員に届いたのは5月12日。翌13日から業界紙が相次いで報道した。これほど組織的な緊急行動が起きたこと自体、この改正案の影響範囲の広さを示している。 利用者・家族からの反発が大きくなるとき、施設は二つの対応に迫られる。一つは「説明」。もう一つは「選択肢の提示」だ。 制度への不信感は、施設への不信感と区別されない。利用者家族が「なんで介護保険に入ってるのに余分に払うの?」という疑問を持ちはじめたとき、その説明責任は施設の現場に来る。 これは法改正の話を超えて、施設の「顧客関係管理」の問題だ。今から入居者・家族へのコミュニケーション設計を考えておくことに、損はない。住宅型ホームと地方施設が今週やるべき3つのこと
法案の審議はまだ続いている。成立か廃案かは現時点では確定していない。ただ、私の経験から言えば、成立を前提に動き始めた事業者のほうが、後で慌てない。 1. 入居者の要介護度分布を確認し、登録施設介護支援の対象者数を試算する 中重度(要介護3〜5が中心になると想定)の入居者が何人いるか。対象者全員に1%負担が生じた場合の月次インパクトを数字で把握しておく。施設規模によっては軽微な金額かもしれないが、入居者家族への説明コストは発生する。 2. ケアプランの委託先を整理し、複数の居宅介護支援事業所との関係を確認する 登録施設介護支援の下で入居者がケアプランの委託先を自由に選べる仕組みになると、外部事業所との関係構築が重要になる。今の段階で、地域の居宅介護支援事業所のリストを整理しておく。 3. 人員配置の現状を書面で記録・保存する 特定地域サービスの対象地域に含まれる可能性がある施設は特に、現行の人員配置状況を記録しておく。今後の基準変更の際に「うちは現行基準をどう満たしているか」を即座に確認できる体制を作る。 小さな準備で大きなリードタイムを生む。経営者として動けるのは今だ。出典・参考情報
- 住宅型ホームのケアマネ新類型、利用者負担に反発の声 家族の会「制度の公平性を損なう」(介護ニュースJoint、確認日:2026年5月15日)
- 家族の会、介護保険改正案は「制度の根幹揺るがす」 人員配置基準の緩和などに待った 国会へ緊急要望(介護ニュースJoint、確認日:2026年5月15日)
- 厚労省、住宅改修・福祉用具の「点検の手引き」更新 適正給付の判断事例など拡充(介護ニュースJoint、確認日:2026年5月15日)
※ 上記リンクは掲載時点のものです。介護保険法改正案は2026年5月15日現在、国会で審議中です。内容は今後変更になる場合があります。
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