厚労省リハビリ統括調整室──PT・OT採用を見直す3つの根拠
60年ぶりに法律が動き始めた──その意味を読めているか
理学療法士(PT)と作業療法士(OT)の根拠法である「理学療法士及び作業療法士法」は、昭和40年(1965年)に施行された。2026年の今年、ちょうど61年が経つ。
制定当時、PTとOTが活躍する場は病院のリハビリ室だった。脳卒中後の機能回復、骨折後の歩行訓練。「治す」ための専門職として設計された法律だ。
ところが60年の間に現場は様変わりした。介護保険制度の創設(2000年)で通所リハビリや訪問リハビリが誕生し、PTとOTは病院の外へ出ていった。さらに近年は「予防」や「健康増進」の分野にまで活躍の場が広がり、フィールドは制定時の想定をはるかに超えている。
法律と現実のギャップ。上野賢一郎厚労相は令和8年5月19日の閣議後記者会見で「制度的な見直しが考えられるかどうかを検討していく必要がある」と明言した。60年間、大きく手が加えられなかった法律に、初めてメスが入ろうとしている。
では、何が変わるのか。それは次の組織設計に答えがある。
「縦割り17名」で動かす本当の狙い
今回設置された「リハビリテーション統括調整室」は、大臣官房に置かれ、室長には医療介護連携・データヘルス改革担当の大臣官房審議官が就いた。次長には医政局・老健局・保険局の課長らが名を連ね、介護予防担当の職員も加わった総勢17名の体制だ(介護ニュースJoint報道)。
この構成が何を意味するか、少し解説したい。
従来、リハビリ政策は所管ごとに分散していた。病院・クリニックのリハビリは医政局が担当、介護施設のリハビリは老健局、報酬設定は保険局──という縦割り構造の中で、政策の一貫性を保つのは難しかった。
今回の新組織は、その3局を横断して「国家戦略としてリハビリを底上げする」という意思表示だ。大臣は会見でこう語っている。「省内の関係部局が一丸となって、分野横断的にリハビリテーション政策を進める」と。
縦割りを横串で刺した組織が動き始めた。これは制度改正の前段階として設けられる布石の動きだ、と私は見ている。
「攻めの予防医療」が変える、施設が求めるリハビリ像
もう一つ、今回の新設で注目すべきキーワードがある。「攻めの予防医療」だ。
高市内閣が標榜するこのスローガンのもと、厚労省はリハビリ専門職を「治す人」から「予防する人」へと再定義しようとしている。上野大臣は5月15日の会見でも「攻めの予防医療の具体化に取り組んでいく中で、リハビリテーション専門職が果たす役割は大きい」と語っていた。
これが施設経営にどう影響するか。
今まで「PT・OTがいる施設」の差別化ポイントは「機能回復が期待できる」という点だった。ところが今後は、「予防と健康増進のプログラムを提供できるか」が加わってくる。利用者の重症化を防ぐ介入、地域住民向けの健康教室、フレイル予防──これらを担えるPT・OTを持っているかどうかで、施設の価値が変わっていく。
「うちのPTはリハビリ室にいるだけ」という施設と、「予防から回復まで横断的に動かせるPTがいる」施設では、数年後の報酬設計や利用者獲得力に明らかな差が出るはずだ。
採用時に何を見るか。今いるスタッフをどう育てるか。その問いが急に重くなっていないか、確認してほしい。
今月、施設経営者がやるべき3つの確認
では、具体的に何をすればいいか。今すぐできる3つを挙げる。
① PT・OT・STの現在の業務範囲を書き出す
自施設にいるリハビリ専門職が今どんな業務を担っているか、把握できているだろうか。「リハビリ室に1日〇時間いる」という情報だけでは不十分だ。予防的介入や地域向けプログラムへの関与がゼロであれば、制度改正の方向性とのギャップが大きい。まず現状の棚卸しをしてほしい。
② 求人票・採用要件の「業務記述」を見直す
PTやOTを採用するとき、自施設の求人票は何を求めているか。「機能訓練の実施」「カルテ記録」──この2行だけなら、今後の変化についていけるスタッフは来ない。「予防プログラムの立案に関わりたい」「地域連携に興味がある」というPT・OTを引き寄せる記述に変えることを検討してほしい。
③ リハビリ関連の研修費用を来年度予算に組み込む
今後、予防・健康増進領域に関する研修の受講が推奨されたり、場合によっては必須化されたりする可能性がある。うちのクライアントの一人(介護老人保健施設のE施設長)は「制度が決まってから動くといつも間に合わない」と言っていた。正直、その通りだと思う。研修予算は法改正の前に組んでおくもの、という発想が経営にはいる。
法改正は「検討段階」、でも先読みした施設が勝つ
念のため確認しておくと、現時点での大臣発言は「制度的な見直しが考えられるかどうかを検討」というレベルだ。改正が決まったわけではないし、いつ、どんな内容になるかはまだわからない。
ただ、縦割りを崩した組織を大臣官房に置き、17名の体制で動かした意味は軽くない。うちがコンサルで関わっている施設のいくつかは、介護報酬改定も「答申の2年前」から動いていて、結果的に加算の取りこぼしがなかった。制度は突然変わるように見えて、必ず前兆がある。
今回の「リハビリテーション統括調整室」設置は、その前兆の一つだ。60年動かなかった法律が動こうとしている。読む人が読めば、かなり大きなシグナルだと分かるはずだ。
PT・OT採用の方針を「今期は現状維持」で決めようとしているなら、一度立ち止まって考え直してほしい。
出典・参考情報
- 上野大臣会見概要(令和8年5月19日)(厚生労働省、確認日:2026年5月21日)
- 上野大臣会見概要(令和8年5月15日)(厚生労働省、確認日:2026年5月21日)
- 理学療法士及び作業療法士法(昭和40年法律第137号)(e-Gov法令データベース、確認日:2026年5月21日)
- 厚労省、「リハビリ統括調整室」を新設 法施行から約60年 制度見直し視野(介護ニュースJoint、2026年5月20日)
※ 上記リンクは掲載時点のものです。省庁サイトのURL変更により404になる場合があります。
あわせて読みたい
- 2026年度診療報酬改定でクリニックの事務スタッフにも賃上げ義務 ─ ベースアップ評価料の新ルールと採用が変わる理由
- ケアマネ更新制廃止で研修が変わる──施設が準備すべき3つのこと
- 2026年介護保険法改正案:住宅型ホームと地方施設の3大変更点
株式会社Reliefのサービスで、事業運営を強力サポート!
株式会社Reliefは、医療機関や介護・福祉・保育施設の運営をトータルサポートする専門企業です。
業界特化型のオンラインアシスタント「セレナ」
月一回からはじめる事務長アウトソーシング「困ったときのじむちょー君」
バックオフィスの業務改善・効率化、MoneyForwardクラウドICT・クラウドDX導入支援
経営課題の解決や業務効率化を実現し、貴社の発展を全力でサポートいたします。
