インボイス2割特例が今年末で終わる──介護・医療施設の対応3択

「インボイスはもう対応した」── その認識のまま令和8年を終えると、翌年の消費税の計算が大きく変わる。 2割特例は令和8年9月30日を含む課税期間の末日で終わる。個人事業者なら令和8年12月31日がリミットだ。今から動けば間に合う。間に合わないと、税負担の増加と処理の煩雑化が同時にやってくる。残り7ヶ月。

インボイス登録「した」だけで終わっている施設が多すぎる

令和5年10月のインボイス制度開始以来、医療・介護・保育施設の経営者から多く聞いた言葉がある。「取引先から言われたので登録した」「とりあえず対応は済んだ」──そういう施設ほど、今まさに危ない。

インボイス制度への対応は、登録で終わりではない。登録した瞬間から消費税の申告義務が生じる。もともと免税事業者だった施設が登録した場合、2割特例という負担軽減措置を使って計算を簡略化してきたはずだ。

問題は、その2割特例に期限があることを把握していない経営者が多い点だ。知らないのは罪ではない。でも、知らないまま年を越すと詰む。

国税庁の2割特例ページを読むと、適用できる期間は「令和5年10月1日から令和8年9月30日を含む課税期間の末日まで」と明記されている。個人事業者であれば令和8年分(2026年1月1日〜12月31日)が最終適用年。今年中に何らかの手続きをしないと、令和9年(2027年)から税の計算方式がそのまま切り替わる。

「切り替わるだけなら別にいい」と思うかもしれないが、そう単純ではない。何も届出をしていなければ、最も手間のかかる本則課税に自動的に移行する。


2割特例が終わったあと、何も決めていない施設に何が起きるか

2割特例が終わって何も届出をしていない場合、デフォルトで適用されるのは本則課税だ。自動だ。自分から選ぶ必要はない。ただし、それが本当に自院に合っているかは別の話だ。

本則課税では、売上に係る消費税から仕入・経費に係る消費税を差し引いて納税額を計算する。大企業であれば経理部がきちんと管理できるが、スタッフが数名の小規模クリニックや介護事業所には負担が大きい。

  • 仕入税額控除の対象となる適格請求書を漏れなく保存する義務が生じる
  • 課税仕入ごとに消費税を区分経理しなければならない
  • 経理ソフトの設定変更と帳票の見直しが必要になる

「経費の領収書を全部インボイスで揃えていなかった」という話は、うちのクライアントの中でも何件かあった。本則課税になってから慌てて対応しようとすると、過去にさかのぼった修正申告も視野に入る。

2割特例の間は計算が単純だった。「売上の消費税 × 20%」を納めればよかった。それが終わる。今のうちに次の計算方式を決めておかないと、令和9年から突然、難易度が上がる。

では3つの選択肢とは何か。そしてどれが医療・介護施設に合っているのか。


3つの選択肢と、医療・介護施設はどれを選ぶべきか

2割特例終了後の消費税の計算方式は、大きく3つある。

① 本則課税(届出不要・自動移行)

何もしなければこちらに移行する。仕入控除を実際の課税仕入額に基づいて計算する方法。経費の多い事業者には有利になる場合もあるが、経理の手間が増える。インボイス保存の義務も厳格に適用される。

② 簡易課税(届出が必要)

「みなし仕入率」を使って消費税を計算する方法。実際の仕入の内容を問わず、業種ごとに定められた割合で仕入控除を計算できる。

医療保健業(クリニック・診療所・訪問看護等)および社会保険・社会福祉・介護事業は第5種事業に分類される。みなし仕入率は50%。つまり売上消費税の50%を仕入控除として差し引いた額を納付できる。

実際の仕入・経費の消費税が売上消費税の50%を下回る事業者、つまり「あまり課税仕入が多くない」施設には簡易課税の方が有利になりやすい。人件費が中心の施設はこのケースに当てはまることが多い。

注意点: 簡易課税は、課税売上高が年間5,000万円以下の事業者が選択できる。また、選択するには所定の届出書の提出が必要だ。

③ 3割特例(個人事業者のみ・令和9〜10年分)

2割特例の後継的な措置として、一定の要件を満たす個人事業者は令和9年分・10年分に限り、売上消費税の30%を仕入控除として計算できる経過措置がある。ただし法人には適用されないこと、令和11年以降は廃止されることに注意が必要だ。

個人で診療所を運営している院長や、個人事業主として訪問介護事業を営んでいる方はこの選択肢も検討できる。


簡易課税を選ぶなら「今年中」に届出書を出す必要がある

個人事業者が令和9年分から簡易課税を使いたい場合、令和8年12月31日(今年の年末)までに「消費税簡易課税制度選択届出書」を所轄の税務署に提出する必要がある

これを過ぎると、令和9年分は本則課税になる。後から「やっぱり簡易課税で計算したかった」と思っても、その年の申告には間に合わない。

法人の場合は、適用を希望する課税期間の初日の前日(前事業年度の末日)までに届出書を提出する必要がある。12月決算法人なら令和8年12月31日、3月決算法人なら令和9年3月31日が目安となるが、2割特例の終了との関係で適用開始タイミングが変わるため、必ず顧問税理士に確認してほしい。

うちのクライアントで多いのは「そういう届出があること自体を知らなかった」というケースだ。経理担当者が変わっていたり、顧問税理士との連携が薄い施設でよく起きる。今日読んでいるなら、今日確認してほしい。

簡易課税か本則課税かの判断は、年間の課税仕入額と課税売上額のバランス次第だ。自院の経費のうち消費税がかかる支出がどの程度あるかを概算するだけで、おおよその判断はできる。計算が難しければ、マネーフォワード クラウド会計で過去の帳票を整理してから税理士に見せると話が早い。


マネーフォワード クラウドで消費税処理を整える具体的なステップ

届出の判断と並行して、消費税の申告処理を整備しておくことが重要だ。

マネーフォワード クラウド会計は、本則課税・簡易課税の両方に対応している。課税方式の設定を変更するだけで、消費税の計算ロジックが切り替わる仕組みだ。令和9年の申告から新しい課税方式を使う場合、令和9年1月1日(または法人の新事業年度開始日)に合わせて設定変更を行えばいい。

実際にうちで支援したクリニックのケースを紹介する。

神奈川のB院長は、インボイス登録後ずっと2割特例で申告してきた。令和8年4月に「今年で2割特例が終わるんですよね」と初めて聞き、「全然知らなかった」と声が出なかった。顧問税理士に連絡してみると「簡易課税の届出はまだ間に合う」と言われ、課税売上・仕入の状況を整理した結果、簡易課税の方が有利と判断。5月に届出書を提出し、マネーフォワードの設定を令和9年から簡易課税に切り替える段取りをつけた。

「先に知っておけばよかった、というだけの話でしたよ」とB院長は言っていた。そのとおりだと思う。何も特別なことはしていない。知って、動いた。それだけだ。

令和8年12月31日まで約7ヶ月ある。今から動けば十分間に合う。対応の順番は単純だ。

  1. 自院・自事業所が2割特例の適用を受けているかを確認する(免税事業者から登録した場合は該当の可能性大)
  2. 年間の課税仕入額を概算し、簡易課税と本則課税どちらが有利かを顧問税理士に確認する
  3. 簡易課税を選ぶなら「消費税簡易課税制度選択届出書」を期限内に提出する

出典・参考情報

※ 上記リンクは掲載時点のものです。制度の詳細や届出書の様式は国税庁公式サイトで最新情報をご確認ください。


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