中小医療機関の事務長雇用問題とその要因
中小医療機関は、国民の健康を守る上で欠かせない役割を担っています。しかし、多くの医療機関は優秀な事務長の雇用が難しく、医業の面で大きな課題に直面していることが多くなっています。事務長は医療機関の運営を円滑にするための重要なポジションであり、その雇用問題は機関の質に直結する重大な課題です。
中小医療機関における事務長の雇用問題の一つに、「①人材不足」が挙げられます。医療業界特有の知識と経験が求められるため、求職者が求められる事務長像は「なんでも屋(ゼネラリスト)として、ヒト・モノ・カネの最適化を行う多岐にわたる業務となる為、求められる条件を満たすことが難しいのです。特に地方や遠隔地にある中小医療機関では、経験豊富、もしくは優秀な事務長を見つけることが難しい場合があります。都市部と比べて地方では、専門職の人材プールが限られていることが一因となっています。
さらに、「②人件費の制約」の確保も課題となっており、給与面での競争力が低いために優秀な人材が集まりにくい状況があります。インターネット上で調べてみると事務長の年収はおおよそ400万~1000万となっており、平均値はおおよそ500万~600万となります。当然、中小規模の医療機関では、給与は大規模病院や都市部に比べて低い傾向があります。中には事務長職として
また、「③キャリア形成の制限」も一つの要因と言えるでしょう。中小医療機関は規模が小さいため、上位の管理職やより高い責任のポジションが少ない、あるいは存在しないことがあることにより、事務長が組織内で昇進する機会が限られます。昇進やキャリア成長の機会が限られていることにより、事務長はキャリアアップを求めてより大きな組織や異なる業界に移っています。
最後に「④職務の過負荷」も要因となります。事務長は経理、人事、運営管理など多岐ににわたる業務をゼネラリストとして一手に引き受けることが多く、そのために高いストレスを抱えることや燃え尽き症候群を患う事も多くあります。また、事務長は経営層が求めるニーズと事務長の価値観や働き方に差異がある事で離職率が高まり、継続的な雇用が困難になっているケースも少なくありません。
以前、事務長は院長先生の配偶者が務める事が多くありました。事業専従者として所得を分散させる事によって節税につなげる事が大きな理由と思われます。また、金融機関出身の事務長も多く転職していました。金融機関出身であれば財務管理、リスク評価、顧客サービスなど、医療機関の事務長に必要な多くのスキルを持っている可能性があったからと思われます。しかし、最近は持続可能な事業として、より組織マネジメント力や時代の変化が速い中での対応力を発揮する事が求められている時代で、事務長としての業務はよりその責が大きくなっています。さらに新規開業する医療機関も増加している中、今後ますます優秀な事務長を確保する事は今以上に困難になる事が予想されます。
中小医療機関における事務長の役割と現状
事務長の役割は、医療機関運営の根幹を支える重要な役割を担っています。事務長は、医療サービスの質と効率性を維持しながら、経理・財務管理、人事管理、法規遵守とリスク管理、法規遵守とリスク管理運営管理、戦略計画と実行、コミュニケーションと関係構築など多岐にわたる業務を担います。さらには日々の運営に必要な行政業務全般を統括する責任を負います。事務長が直面する問題は多岐にわたります。限られた予算の中で質の高いスタッフを確保し、維持すること、また、医療技術の進歩に伴う研修や教育の必要性といった課題があります。事務長はこれらの課題に対して、戦略的な思考と柔軟な問題解決能力をもって対応する必要があります。事務長は、医療と経営の両面にわたる深い知識と経験が求められます。医療業界特有の規制や法律の変更への適応、技術革新への対応も含め、絶えず変化する環境の中で、事務長は機敏に行動することが期待されています。
- 経理・財務管理
- 日々の会計業務、財務報告、予算管理。
- 収益と支出のバランスを保ち、財務の健全性を維持。
- 金融機関との関係管理や融資交渉。
- 人事管理
- スタッフの求人・採用・解雇、研修、評価、人事異動。
- 従業員の労務管理、給与計算、福利厚生の管理。
- 労働関連法規の遵守と更新。
- 運営管理
- 日々の診療所の運営管理。
- 患者サービスの質の向上と効率化。
- 設備管理、メンテナンス、安全対策。
- 戦略計画と実行
- 長期的な事業戦略の策定と実行。
- 新しいサービスや技術の導入。
- 競合分析と市場の動向把握。
- 法規遵守とリスク管理
- 医療法規や規制の遵守。監査対応。
- リスク管理計画の策定と実行。
- 危機管理と緊急対応計画の維持。
- コミュニケーションと関係構築
- 内部スタッフ、外部ステークホルダーとのコミュニケーション。
- 地域社会や他の医療機関との連携。
事務長には高度な専門知識と経験が必要とされますが、経営資源には限りがあり、適切な条件での採用が難しいのです。さらに、病院経営が厳しくなるにつれて、事務長の仕事はより複雑になり、その重圧から良い候補者がこの職を避けることも増えています。
さらに医療業界では、法規制が厳しく、新しい医療技術が次々と導入されることで、事務長には常に進化する医療に合わせた管理能力や戦略的思考が求められます。これらの要因により、事務長に必要なスキルセットは日々複雑になっているのです。
このような背景から、事務長不足は医療サービスの質の低下を招く恐れがあり、患者満足度の低下にも繋がりかねません。
事務長が担う経営サポートの重要性
中小規模の医療機関において、事務長という役割は病院経営における中核を成す重要なポジションです。事務長は、財務管理から人事、さらには法規制の遵守に至るまで、病院運営の複雑な事務作業を一手に担います。これにより、医師や看護師等の医療従事者は自らの専門分野に専念し、最高水準の医療サービスを患者に提供するための時間を確保できるのです。事務長の存在は、病院の効率性と機能性を高め、医療の質を支える不可欠なものとなっています。
しかし、規模が小さい医療機関においては、経験と能力を兼ね備えた事務長を見つけることが一つの挑戦となります。優秀な人材が求める適正な報酬を支払うことが経済的に難しい場合が多く、事務長は医師や看護師と同様に専門知識を常に最新の状態に保つための教育への投資も限られてしまいます。さらに、職場内での役割の多様性と重圧、そして個人的な生活とのバランスを取るためのサポート体制が不十分なことが、質の高い事務長を確保する上での障壁となります。
事務長に十分なリソースや支援が提供されない場合、その影響は医療機関の運営全体に波及します。管理上の不備は、患者の満足度の低下や法的な問題、そして最悪の場合は医療ミスに繋がる可能性もあります。こうした事態を防ぐためには、医療機関は事務長の採用プロセスを見直し、適切な評価とインセンティブを提供することが求められます。また、継続的な教育プログラムやメンタルヘルスのサポートなど、事務長のスキルとウェルビーイングを維持するための環境を整えることも重要です。
医療機関が持続可能な運営を続け、地域社会に貢献していくためには、事務長をはじめとするスタッフの働きやすさと成長を促進するための戦略を練る必要があります。適切な報酬体系の設計、職員のワークライフバランスの改善、教育機会の拡大などの課題に対して前向きに取り組むことで、高いレベルの医療サービスを提供し続けることが可能となり、地域社会におけるその価値と信頼を確固たるものにすることができます。
事務長の採用と育成の障壁
中小規模の医療機関が直面する事務長の採用と人材育成に関する問題は、多層的で複雑です。採用フェーズでは、しばしば財政的な制約により、競争力のある報酬を提供することが難しくなります。このため、高い専門性と経験を兼ね備えた候補者を引き付けることが一層困難になるのです。さらに、医療機関特有の業務遂行には、医療知識や規制への理解が不可欠であり、これらの要件は他産業の管理職ポジションとは異なり、特定の専門スキルを必要とします。このような医療業界の特殊性は、人材市場において、候補者を限定させる要因となっています。
また、人材育成の側面では、新たに採用された事務長が迅速に業務に適応し、必要なスキルを習得するための研修不足が問題となります。医療機関は、患者ケアの質を維持しながらも、経営的に効率的でなければならないため、事務長には医療サービスの提供だけでなく、機関の財務管理や人材管理、運営の改善に関する高度な知識とスキルが求められます。これらのスキルは即席で身につけるものではなく、継続的な教育と実践的な経験を通じてのみ習得可能であり、適切なトレーニングとメンター制度の機会の不足は、事務長がその潜在能力を完全に発揮することを妨げる大きな障害となっています。中小医療機関では特に、事務長が経営にも深く関与するため、経営戦略の理解と実行能力も求められますが、求められる能力を内部で育成するには時間とコストがかかります。
デジタル化時代の事務長の新たな役割
デジタル化が進む現代において、中小医療機関の事務長に求められる役割は大きく変化しています。かつては患者の受付管理やスタッフのスケジュール調整、会計業務などが主な仕事でしたが、今日ではこれらの業務に加え、電子カルテの管理やオンラインでの予約システムの運用など、デジタル技術を駆使した業務が必須となっています。このようなデジタル化に対応するため、事務長はITスキルの強化が求められており、事務長のITスキルの高さで中小医療機関における医療のDX化が進みます。
主なDX化として
電カル・レセコンのクラウド化・予約システム・セキュリティー管理、システムアップデート、オンライン診療、HP等SNS管理運用、バックオフィス系(勤怠や経理)のクラウド化、キャッシュレス決済等
新たな役割として、事務長はIT導入だけでなく、医療情報システムの管理やデータのプライバシー保護など技術的な側面に加え、変化に敏感で柔軟な対応ができるリーダーシップを発揮することが求められています。
弊社では医療機関におけるICT化・DX化を行っております。
中小医療機関における事務長アウトソーシングのメリット
中小規模の医療機関において、優秀な事務長の採用と維持は経営上の難題の一つです。厳しい財政状況の中で、優秀な人材を確保し、長期にわたって事務長を継続的に雇用を保持することは、しばしば困難を極めます。このような背景のもとで、事務長職のアウトソーシングは、医療経営上の課題に対する有望な解決策のひとつとして注目されています。
事務長アウトソーシングの利用により、中小医療機関は管理業務の最適化を図る一方で、人件費の削減を実現することができます。外部委託の最大の利点は、経験豊富な事務長の専門スキルと知識を、必要な時に必要な分だけアクセスできる柔軟性にあります。これまで、雇用が難しかった事務長職を外注する事により、バックオフィスを任せる事が出来る事で事務方の質の安定化はもちろんの事、期間限定のプロジェクトへなどへの迅速な対応を可能にします。
事務長アウトソーシングサービスを提供する弊社は、多種多様な医療機関との契約を経験することで、その知識と専門性を深め、各医療機関における業務プロセスの最適化を行う事ができます。弊社の事務長アウトソーシングサービスは、医療機関が直面する雇用に関する課題を軽減し、一方で日常業務の円滑な運営を支援します。
事務長を外部委託する事により、中小医療機関は経営資源をより効果的に再配分できるようになります。人材の採用、育成、および維持にかかるコストと時間を節約し、これらのリソースを患者ケアの質の向上や新たな事業投資に重点を置くことが可能になります。また、医療機関は、アウトソーシングを通じて、経営の専門家からの定期的なアドバイスやサポートを受けることで、経営戦略の策定やリスク管理においてもベネフィットを得る事が可能となります。
事務長をアウトソーシングする事は、同医療圏の中で競争力を維持し、地域社会に対して高品質な医療サービスを提供し続けるための基盤を築く上で、極めて価値が高いものとなります。事務長代行は、経営の効率性と持続可能性を高めるための、現代の医療機関にとって欠かせない戦略的選択肢の一つと言えます。
事務長アウトソーシングと直接雇用の違い
医療機関が事務長を採用する際の選択肢として「直接雇用」と「アウトソーシング」の二つの方法があります。
「直接雇用」とは、医療機関が自ら事務長を選んで雇い入れ、給与や福利厚生などを自分たちで管理する方法です。この方法の利点は、医療機関が自らの方針や雰囲気に合った人材をじっくり選べることです。しかし、適切な人材を見つけ出すのが難しかったり、人事管理に手間がかかったり、雇った人が辞めてしまうリスクも伴います。
一方、「アウトソーシング」とは、弊社のような外部の専門会社が事務長を派遣してくれるサービスを利用する方法です。この場合、人材の探索や教育にかかる手間が省け、専門的なスキルを持った事務長が来ることが期待でき、経営がスムーズになる可能性があります。ただし、外部から来た人が医療機関の特色を十分に理解しにくい可能性があり、またコストが一定で変動しないため、経済的な柔軟性に欠けることもデメリットとして挙げられます。
アウトソーシングのメリット
- コスト削減
給与、福利厚生、トレーニングコスト、社会保険、雇用保険、労働保険料の会社負担分などの直接的な雇用コストを削減できます。
短期的なプロジェクトや特定のニーズに対応する場合、長期的な雇用よりもコスト効率が良い場合があります。 - 専門知識の活用
医療運営の分野における一定の専門知識を有しており、その知識を医療機関に提供できます。
最新の医療業界トレンド、技術、ベストプラクティスに精通していることが期待できます。 - 柔軟性の向上
特定のプロジェクトや繁忙期に応じてリソースを調整する柔軟性を提供します。
需要の変動に応じて、サービスのスケールアップやダウンが容易になります。 - リスクの軽減
雇用関連のリスク(労働訴訟、採用ミスなど)が外部企業に移行されます。
- 業務の質やコンプライアンスを保証する責任を負います。
- 経営資源の集中
管理業務を外部に委託することで、医療機関の経営者や他のスタッフは患者ケアや他の重要な業務に集中できます。
- 事務作業の効率化
事務作業を効率化するためのシステムやプロセスを導入することができます。
事務長一人ではなく、チームとして取り組む事が出来ます。
アウトソーシングのデメリット
- 組織との連携不足
アウトソーシングされた事務長は組織の日常業務や文化に十分に馴染んでいない可能性があります。これにより、組織のニーズや特定の問題に対して十分に対応できない場合があります。先ずは何が問題になっているのか、何がニーズとなるのかをしっかり見定めていくことが重要となります。
- 従業員との関係構築の難しさ
アウトソーシングされた事務長は、従業員との信頼関係や有意義な関係を築くのが難しいことがあります。これは従業員のモチベーションや組織への帰属意識に影響を与える可能性があります。「同じ飯を食べている仲間」ではなく、あくまでもお客様のような対応となってしまう事があります。アウトソーシングする場合は出来る限り従業員との関係性をしっかり構築するように留意される事が重要です。
- コミュニケーションの問題
定期的なコミュニケーションや直接的な対話の欠如は、誤解や情報の伝達不足を引き起こす可能性があります。事務長は経営層と従業員の間に入り、経営層の意図をくみ取り、現場に落とし込む事が必要となります。先ずは経営層とアウトソーシングする事務長の間でコミュニケーションをしっかりとり、理念やビジョンを伝えていく事は重要です。
- コストの問題
初期のアウトソーシングはコスト削減に貢献するかもしれませんが、長期的には追加の費用が発生する可能性があります。特に、特定のプロジェクトや専門知識が必要な場合は、追加費用がかかることがあります。本来、直接雇用される事務長は経営層の参謀としての役割がありますが、アウトソーシングされた事務長はマネジメント業務を行う事が第一であり、契約の内容により業務の範疇が定まってきます。何を相談したいかを入念に検討頂く事が必要となります。
- セキュリティと機密性の懸念
機密情報や患者データを扱う場合、外部の事務長にアクセスを許可することはセキュリティリスクを高める可能性があります。もちろん、機密情報保護契約や個人情報保護契約を締結した上で業務に携わりますが、事務長の所属する会社内にて情報を共有する事はよくあります。
- 緊急時や突発的な案件への対応
アウトソーシングされた事務長は、毎日施設にいるわけではない為、緊急時や突発的な対応を依頼しにくい傾向があります。そのような場合にどう対応を取るかを決めていくことが重要となります。
どちらの方法を選ぶかは、医療機関の独自性や目指す目標によって異なります。それぞれの医療機関が自身の状況に合った選択をすることが、長期的に安定した運営に繋がるのです。